DVの本質 — 加害者が「演技」をする理由

hosokawa
展信先生
展信先生

DV加害者は実力派俳優です。シリアスから人情もの優等生役もお手の物。果てはコメディから「頭おかしいんじゃないの?」と言わせるほどの、狂った演技まで幅広くこなします。なぜ演ずるのか?素の自分ではあなたを支配できないから。

演技の裏にある支配の意図

DV加害者は「馬鹿」ではありません。彼らは「賢い」とさえ言えるのです。

何が「賢い」のでしょうか。

被害者を支配することができる。 被害者を騙すことができる。 被害者に罪の意識を抱かせることができる。

そして、彼らは演技がとても上手いのです。

怒ったと思ったら泣き。 泣いたと思ったら笑い。 笑ったと思ったら怒る。

被害者のリアクションを「観察」する加害者

この激しい感情の変化は偶然ではありません。泣き、笑い、怒りながら、彼らは被害者の様子を「観察」しているのです。

泣いたらどうリアクションするか。 笑ったらどう反応するか。 怒ったらどう動くか。

そしてそのリアクションから学び、必勝パターンを作り上げていくのです。

例えば、ある相談者の場合を考えてみましょう。

妻は世間体を非常に大事にする人でした。人からの評価が何よりも重要で、自己肯定感が低い状態でした。

加害者である夫は、妻の弱点を完璧に把握していました。それは「世間体を壊されること」。妻にとっての命とも言える「他者からの評価」を脅かすことで支配を確立していったのです。

妻が言うことを聞かないと、夫は大声で叫び始めます。 「大声を出さないで!ご近所さんに迷惑でしょ!」と妻が懇願しても止めません。

なぜ止めないのでしょうか?

相手の命にナイフを突きつけているようなものだからです。言うことを聴くまで止める必要がありません。

恐怖と安心のサイクルによる支配

しかし、妻が「わかったわ」と言って従っても、すぐには満足しません。さらに恐怖を与え続けるのです。今後一切逆らわないように、容赦なく脅し続けます。

恐怖で人は支配されます。 恐怖によって人はコントロールされるのです。

ここからが重要なポイントです。

恐怖を与えすぎると被害者が壊れてしまうため、加害者は「休息期間」を設けます。いわゆる「ハネムーン期」です。突然、優しく甘く接し、笑顔を見せるのです。被害者をほっとさせるのです。

ナイフをつきつけたり、甘く笑いかけたり。 緊張と弛緩。 恐怖と安心。

これらの繰り返しで、相手の心を翻弄し、コントロールしていくのです。コロコロと態度を豹変させながら、演技を駆使して、相手を支配していきます。

生かさず、殺さずの永続的な支配関係を作るための、トライアンドエラー。 そして、彼らは自分だけの必勝パターンを作り上げていくのです。

「素の自分」を隠す理由

DVからの脱出のためには、相手が「演技」をしていることに気づかなければなりません。演技を通じて何を隠しているのか?それは加害者の「素」の姿です。

では、なぜ素の自分を隠すのでしょうか? 答えは単純です。素の自分ではあなたを支配できないからです。

DVからの脱出に必要な気づき

加害者の演技に気づいたら、次は何をすべきでしょうか?

まず認識すべきは、あなたが悪いのではないということです。DV関係の中では、加害者はあなたに「あなたが悪い」と思わせようとします。これは支配のための重要な戦略なのです。

しかし、どんな理由があっても暴力は正当化されません。

御取次の場では、この事実を何度も確認します。あなたは悪くない。あなたが暴力を受ける理由など存在しないのです。

御取次を通じて、私たちはまず自分自身を取り戻す作業から始めます。

「私はどうしたいのか?」 「本当の私の望みは何か?」

これらの問いに向き合うことは簡単ではありません。長い間、加害者の望みを自分の望みと思い込まされてきた可能性があるからです。

御取次は、あなたの心の奥底にある本当の声を聴く場なのです。そこには恐れも不安もあるでしょう。でも、それらの感情もすべて大切なものとして受け止めていきます。

コントロールから脱出するためには

御取次の場では、具体的な安全計画を一緒に考えていきます。信頼できる人に状況を打ち明けること、緊急時の連絡先を確保すること、必要な書類や最低限の生活費を用意しておくことなど、実践的なステップを踏んでいきます。

特に大切なのは「孤立」を解消することです。

DV加害者は被害者を孤立させることで支配を強化します。御取次を通じて、あなたは一人ではないことを実感できるでしょう。

そして、回復の道のりは決して直線ではありません。時に後退することもあるでしょう。しかし、御取次の場では、そのすべてのプロセスに寄り添い、あなたの歩みを支えます。

あなたの中には、すでに癒しと成長の種が蒔かれています。

その種が芽吹き、やがて花を咲かせる過程を、御取次を通じて共に見守っていきましょう。

演技ではない、本当のあなた自身を取り戻す旅は、ここから始まるのです。

ひろのぶ先生
ひろのぶ先生

あなたには幸せになる権利があります。そのことを決して忘れないでください。

ABOUT ME
細川展信先生
細川展信先生
取次師
はじめまして。私は家庭内暴力・DV問題に取り組む取次師として活動している細川展信(ほそかわ ひろのぶ)と申します。長崎県平戸市出身の43歳。現在は妻と共に苦しんでおられる方のお話を聴かせていただいております。 私は「家庭内暴力・DVからのたすかり」を人生の使命として、これまで数百人もの危機的状況にある方々のサポートに携わってきました。「もう生きていけない」「この状況から逃れられない」と絶望の淵に立たされた方々の声に真摯に耳を傾け、具体的な脱出・回復への道筋を提示することを心がけています。 暴力の現場に立ち会い、その痛みを間近で見てきた経験から、私は声のトーンや話し方にも細心の注意を払っています。低く落ち着いた声でゆっくりと話すことで、トラウマを抱えた方々が少しでも安心して相談できる環境づくりに努めています。 故郷・平戸の強いツツジのように、どんな逆境にあっても人は新たな人生を咲かせることができる—この信念のもと、被害者の方々の自立と尊厳の回復をサポートしています。 このブログでは、DVや家庭内暴力から脱出するための具体的方法、心の回復プロセスなど、実践的な情報を綴っていきます。どなたか一人でも、この情報が命綱となることを願って。 あなたは一人ではありません。必ず助かる道はあります。
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